「美しい鉄塊」2016/10/5

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Dream

 妙な気分だった。自分が何かを起こそうとするその理由を、全て他人に丸投げしたくなるような……誰かを傷付けたい気分だった。

 あまり見覚えのない廃工場にいる。窓ガラスは割れ、工場内はホコリをかぶり、もう二度と使われることのない大きな機械がゴロゴロと転がっている。カッターナイフが刃を出したまま、自分の涙で錆びている。

 なぜかその工場の、少し広めの一室にいた私は、奥の方から4トントラックが走ってくるのを見た。部屋の中で、全力でトラックがこちらに向かって走ってくる。顔は見えなかったが、誰か乗っているようだ。

 私が慌てふためき袂を探ると、そこから更に大きなトラック(10トンくらいだろうか)がにゅっと出てくる。無人だった。

 トラックに乗り込んだ私は、躊躇せずアクセルを踏む。2台のトラックが正面衝突した。運転席はびくともしない。
そのまま4トントラックを押し返した私は、相手を壁際まで追いやり、更にアクセルを踏んだ。

 4トントラックはまるでロールケーキのように簡単に押しつぶされ、あっという間に鉄の塊になった。中にいた人は多分死んだだろう。可哀想に。だがざまあみろ。

 と思った瞬間、ほんの少しだけ時間が巻き戻った。
トラックを壁際に追い詰めたところまで、意識が戻っていた。

 アクセルを踏む。4トントラックが押しつぶされる。時間が戻る。アクセルを踏む。トラックがつぶれる。もとに戻る。踏む。ロールケーキ。戻る。踏む。鉄塊。戻る。

 同じことをしばらく繰り返しているうちに、私はトラックのうまいつぶし方と言うものを模索していた。

 このタイミングで踏み込めば、もっと綺麗につぶせるだろう……。何度も何度も繰り返しロールケーキである。左右対称な鉄塊の美を探すのである。トラックをつぶす際にはけたたましい金属音とともに、プチッという小気味の良い小さな音がするのである。何とも心地よい。もっといいつぶし方はないか。半分潰して、それから勢いをつけてぶつかってみたらどうだろう。ギアを少しづつあげてみてはどうだろう。後ろ向きに突撃するのは?

 ロールケーキになった4トントラックは、けたたましい金属音と、プチッという小気味の良い音とともに、この世で最も美しい鉄塊となった。

 満足の行く出来だ。ニヤニヤしている。

 時間が巻き戻ることがなくなったので、私は廃工場の窓から外へと飛び降りた。

 高速道路沿いを、息を切らしながら走る。なんでもないそこらの雑草に目が行く。不法投棄している自動車の残骸に目が行く。駅に向かって歩いている女子高生やサラリーマンの隊列に目が行く。デブのOLが嫌な目をしながらこちらを睨みつけてくる。駅の入口へと、人が吸い込まれる。
ああなんだろう。人ってなんだろう。私ってなんだろう。

Real

 最近、仕事が昼間から夜勤へ変わり、朝に寝て夜に起きる生活となった。

 一日のサイクルに慣れてしまえば、夜勤というのは案外悪くない。人と出会うことは少ないし、夜風が心地良い。

 ただ熟睡ができなくなった。海の底からふわっと浮き上がってくるような、あの何とも言えない目覚めを感じなくなっていた。

 ここ二ヶ月は詞もあまり書いていない。依頼はいくつかあったが、自分から応募するようなことはなかった。

 真剣に、書くことをやめようかと考えた。

 一度離れてしまうと、それっきり書く意欲が全く湧かなくなる。最初から作詞などしていなかったかのように毎日が流れていく。書かずとも生活に支障はない。むしろ楽になったような気さえしてくる。

 書くことそのものが自分への負担になっていたのではないか……そう思い始めてから、キーボードを打つことが間違いであるかのような気がしていた。

 一月ほど前に、ボカロ関係で一度お世話になった方から、詞を書いて欲しいと連絡が来た。私が有償になりますがよろしいですかと返すと、返事がなかった。以来そのままである。

 どうやら私の詞には3000円の価値はないらしい。その人は私の詞を見て「素晴らしい人だ」と言った。無償にしては、という言葉が抜けていたように思う。

 タダで書くということに違和感を感じ始めている。曲も、詞も、誰かが頭をひねり、時には心の一部を削って作り上げたものだ。命と同じものだ。だのに、一銭にもならない。

 0円の詞は誰かを救うことはできるかもしれないが、代わりに自分を枯渇させることになりはしないか。見返りを求めないと言えば清貧で美しいが、その結果何も残らないのでは笑い話にもならない。

 書くことは、やめない。ただ、もう少し時間を置こうと思っている。

 というのも、今私はジグソーパズルをしている。noteでさらっとつぶやいたような気がするが、3000ピースのウユニ塩湖である。縁と真ん中あたりを軽く埋めただけで、そこから全く進歩していない。

 これを完成させてから……このパズルに描かれた空を見てから、詞を書こうと思う。この写真の空は本物だ。何かを持っている。これを完成させなければ先へ進めない。

 全く、自分でもアホらしい理屈である。

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