VOCALOID5所感~超今更レビュー~

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 今回はVOCALOID5について、超今更ながら使ってきた感想やら、個人の見解やらをまとめておこうと思います。

 というのも、私の周りでV5を使っている人がほとんどおらず(大体の人がV3かV4使ってるっぽい)、最近SynthVやらCeVIO AIやら色んな歌声合成エンジンが動き始めてきたので、比較のためにも自分用にまとめておこう、といった感じです。

 散々高いだの重いだのボカキューが本体だのボロクソに言われてますが、頑張って紹介してみましょう。

 

V4と違う点

 そりゃもう全然違います。手持ちの光学マウスが突然トラックボールになっちゃうくらい色々と勝手が違います(意味不明)。

 主な変更点は
・VST/AU対応
・新パラメータ追加(Exciter・Air)
・一部パラメータの廃止(XSY・E.V.E.C)
・job pluginの廃止
・アタック・リリースエフェクト追加
・シンギングスキルによる自動調声追加
・レンダリングタイミングの変更
・EQやコンプなどのエフェクト追加
・オーディオサンプル追加

 といった感じ。細かく挙げるとキリがないのでこの程度で。見てもらえればわかりますが、単純にV4の上位互換というわけではないです。色々機能が追加されてるおかげでエディター自体がかなり重く、DAWと併用するとそれなりのマシンスペックを要求されます。

 

褒める所は褒めましょう

 さて、V4を使ってる人がV5にして一番のメリットになりそうなのは、新パラメータの追加でしょうか。

 Exciterは現在の歌声合成エンジンのトレンドである「力度パラメータ」になります。上げると強く、下げると弱くなるアレです。SynthVのテンションと似たような感じ。

 効きの良すぎるパラメータで、ちょっと上げるとすぐ音割れしたようなイヤな声になります。基本的にBRI(ブライトネス)を最大値近くまで上げて、Exciterは20~-50くらいの間で使うといい感じ。

 AirはBRE(ブレシネス)の相互互換にあたるパラメータで、上げると息成分が付加されます。

 ちなみにV4までのBREは正直使い物にならず、V3ライブラリでグロウルの代用として使うくらいしかなかったのですが、地味にこのパラメータもV5で改善されています。Airが口を狭めてささやく感じ、BREが口を開けて息を漏らしながら歌う感じで、使い分けもできます。

 アタック・リリースエフェクトと自動調声は、ベタ打ちよりはマシになるかな?というくらいの性能です。元からV4でパラメータをガッツリ書き込んでいる人にはほとんど恩恵のない部分かと思います。「手軽に調声できる」という点では調声初心者向きといった感じ。

 レンダリングタイミングですが、V5だとパラメータをいじるとパートごとに即レンダリングされます。あまり長いパートをいじるとレンダリング時間も相応にかかってくるので、適宜分割しながら編集するといいです。V5がリリースされた当初はレンダリングにかなり時間がかかってましたが、アップデートを重ねてそこそこ高速化されているので、現在は不満というほどではないです。

2020/12/1追記

 Version 5.6.0のアップデートにてレンダリングが改善され、パートの先頭から徐々に合成されるようになりました。今までのようにパートを細かく分割する必要がなくなり、パラメータ編集後のレンダリングもかなり高速に。レンダリング面の不満点は解消しました。

 また最近まで知らなかったのですが、エモーションツールを押すと合成音の波形が表示され、この状態でVEL(ベロシティ)の編集ができるようになります。発音の微調整やトークロイドにはすこぶる便利。……VEL以外でも表示できるようにしてくださいよ(真顔)。

 

 

全力でダメ出ししていくスタイル

 はい、ここからが本題。むしろ欠点のほうが目立っているせいでV5は流行らないわけでして。

 特にjob plugin・XSY(クロスシンセシス)・E.V.E.Cの廃止は本当に最低。一部とは言え後継ソフトで互換性切っちゃうのはいかんでしょ。

 job pluginが使えないので、V4時代にYAMAHAが販売していたぼかりすも使えません。その代わりに自動調声が……という感じなのでしょうが、前述した通り元からガッツリ書き込むタイプの人には微妙な仕上がりになるので、結局使わないという……。

 ちなみに一部のアタック・リリースエフェクトはV5の桜乃そら・鳴花ヒメ・ミコトを購入しないと使えないものがあったりします。しかも該当ライブラリでエフェクトを選択してから、歌わせたいライブラリにいちいち変更しないと使えないという不親切仕様。

 XSYが廃止されているので、音街ウナや猫村いろはなど「両極端な性能のライブラリをクロスして運用する」タイプのライブラリが超絶使いにくくなってます。一応外部ソフトを使えば擬似的にXSYを再現することは出来ますが、ぶっちゃけ面倒。

 E.V.E.C廃止ですが、これは厳密にいうと「Piapro Studioのようなオプション表示がない」というだけで、対応する発音記号を手入力すればV5でも使えないことはないです(この辺は手持ちのE.V.E.C対応ライブラリのマニュアル参照)。要はV4 Editorで発音記号をいじって使うのと同じ感じ。しかしjob pluginが使えないので手入力しないと使えません。クソ。

 次にEQやコンプのエフェクトですが、大体の人がボーカルをオーディオ化してからエフェクトをかけると思うので、これ一番いらない部分じゃないですかね(使ってる人いたらごめんなさい)。

 そして最大の難点。値段が高すぎる。

 現時点で販売方法が「YAMAHA製ライブラリとの抱き合わせ」でしか売っていないので結構なお値段がします。エディターだけ欲しい人にとってはボッタクリとしか思えない価格設定(付属ライブラリの数や性能を考えると妥当な金額かもしれませんが)。これのせいで新規でVOCALOIDを使いたがる人がどんどん減ってます。

 STANDARDに付属しているライブラリ4人(Ken,Kaori,Chris,Amy)もソウルやR&B向けで、VOCALOID使用曲の大部分であろうアイドルソングやPOPSには向いていないというやけくそっぷり

 YAMAHAは一体どこを目指しているのでしょうか……。

 

個人的にはこう使う

 さて、ボロクソに色々言ってますが、私は現在V4とV5を併用して使っています

 V5を購入するとおまけとしてボカキュー4.5が付いてくるのですが、これはV4のGUIのままV5用ライブラリも使えるシロモノでして(V5の新パラメータなどは使えません)、これとV5とを併用する感じですね。

 先に4.5でjob pluginをフル活用して調声し、そのデータをV5で読み込んでExiterとAirを調声する、といった具合。前述したXSY前提のライブラリは4.5で書き出しますし、逆に単一ライブラリはV5に持っていくと単純にパラメータが増え表現の幅が広がります。

 このやり方だと他のVSQXファイルを読み込めるエンジン(SynthVやPiapro Studio NTなど)とも併用できるのでおすすめ。

 要するにV5は新パラメータと新規ライブラリのためだけに使ってるような状態。パン生地がめっちゃマズいチョココロネのチョコだけすくって食べてる感じ(謎の例え)。

 

これからのこと

 SynthV Studioや初音ミクNTのプロトタイプが発表され、パラメータや機能だけ見るとV4のほぼ上位互換みたいなやつがV5より安く買えちゃう現状、特定のキャラにこだわらない新規ユーザーがそちらに流れてしまうのはもう仕方のないことかもしれません。

 圧倒的な出音の良さやライブラリの豊富さなど、VOCALOIDにしかない魅力も沢山ありますが、ユーザーが手にとることができなければそれはないのと同じなわけです。

 何よりも気がかりなのは、合成エンジンが細分化することによってユーザーの歌声合成導入の敷居が更に高くなってしまうこと。欲しいライブラリ(キャラの声)が複数あったとして、それが全部別の合成エンジンです、なんてめんどくさいどころの話ではないです。

 複数の合成エンジンの使い方を覚えるのは結構な手間と時間がかかり、それを喜んでやるのは私みたいな一部の変態ぐらいのものです。新規やライトユーザーの増えない界隈はことごとく衰退していきます。「合成音声なんてそんなものだ」と言ってしまえばそこまでですが……。