詞を書くために万年筆を買った話

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 こんにちは、玄川静夢です。

 作詞活動を再開してから、自宅で紙に文字を書く頻度が大幅に増えました。いつもならメモ書き程度でしか使わないコピー用紙がみるみる減っていきます。

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 見ただけで寒気のする(らしい)おぞましい筆跡。友人からは「ミミズのほじくった字」と呼ばれます。

 私は普段の作詞の際、コピー用紙で文字を書き留めながら、同時進行でPCのメモ帳も使うというちょっと変わったやり方をしています。曲を聴いてから、そのイメージやメッセージ、とりあえず浮かんだ言葉などを紙に素早く書き、それらの言葉を音数にうまく当てはめながら(パズルのようなイメージ)、少しずつ全体を埋めていく……そんなやり方です。

 アウトプットの始まりは必ず、紙に万年筆で書きます。走り書きで素早く書けるだけでなく、手で書くことで、その言葉の本質が見えてくるからです。「良い感じ、悪い感じ」とでも言えばいいでしょうか。

 その万年筆ですが、今までは鉄ペンを使用しておりました。安価な上に耐久力もそこそこ高く、カートリッジで手を汚すこともなくインクを交換できる手軽さも魅力ですが、その細くカリカリとした書き味は、まるで紙に対してイメージを焼き付ける、刻印するかのような印象でして、私のような使い方にはあまり向かないなと。

 そこで、思い切って少し値の張る金ペンの購入に踏み切りました。

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 こちらがその外箱。これだけでもう何を買ったか分かる人もいるんじゃないでしょうか。

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 ペリカンの最高峰、スーベレーンM800と並ぶロングセラーモデル、M400。そのロジウムメッキ版であるM405です。ストライプカラーは青、ペン先は日本語を書くにはちょっと太めのMです。

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 ペン先を含む全体の金属部分がシルバー色で統一されたボディ。M400シリーズのような派手な主張のない、落ち着いた存在感。滑らかで引き締まったフォルム・ペン先の流線型の溝・ペリカンをあしらった天冠とクリップ部分は、男性的な色合いであるにも関わらずどこか女性的な雰囲気を漂わせています。ボディのストライプは見る角度によって異なる色彩を放ち、その煌めきは所有者の心の平生を保ち、言いようのない安心感を与えてくれます。

 高速筆記に耐えうる潤沢なインクフローと、滑らかな書き心地を持つ金ペン先……私の書き方にはこの二つは必須条件でしたが、他用途での使用も想定し、場面を問わず手軽に使える汎用性を持つこと、また人生で一度も使ったことのないインク吸入機構を備えたもの、これらの全てを兼ね備え、かつデザイン面でも秀でていたM405しか、私には選択肢がなかったのでした。

 要約:スーベレーンカッケー!

 インクは同じくペリカンのロイヤルブルーを購入。まさにド定番な組み合わせですが、ド定番にはド定番と呼ばれるだけの良さがあります。

 インク吸入を終え、キャップをペン尻に装着することでやっとボールペンくらいの長さになります。重心はやや後ろ寄りで、少し寝かせる万年筆特有の持ち方は勿論、通常のボールペン等のような持ち方でもしっかりフィットします。全体の華奢なラインと、想像以上にこじんまりとしたペン先から、溢れんばかりの色彩が滑り落ちてきます。

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 写真で見るとやや褪せて見えますが、実際はもっと彩度のある深い青色であり、太めのペン先なのも相まって濃淡がよくわかります。万年筆のインクは使っているうちに水分が抜けどんどん濃くなっていくので、これから更に深い色味になっていくのでしょう。

 書き味は素晴らしいの一言。生地の細やかな布に指を滑らせるときのごとく、何一つ抵抗がなくインクが紙へと伝います。日本では小さなスペースに漢字を書くことが多いため細字のFやEFのニブが好まれますが、金ペン特有のシルキーな書き味を堪能するにはM以上がおすすめです。

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 ちなみにこの筆跡、頑張って綺麗に書こうと思って書いたものであり、普段の筆跡は上記の通りとてもおぞましく、人に見せられるようなものではないです。

 そもそも人に見せるものでもないですし、文字の拙さで人生の8割を損するなら考えますがそんなことはなく、むしろバカ丁寧に書くその間も、頭の中の素敵なアイデアが華麗に飛び去ってしまうので、わざわざ貴重な時間を割いて字を綺麗に書く必要がないだけの話であってですね……。にじみ出る言い訳。要は読めれば良いのです。

 金ペンは使い込む内、所有者の書くクセに応じてその形が少しずつ変化していくといいます。書くほどに馴染み、所有者の思う形へと変わっていく……。

 購入したばかりなので、これからペン先がどう変わってくるのか楽しみです。

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