死を書く男がいる
過度に褪せたさびしい街の
赤茶けた屋根の下の立方体の空間に
断続的なコンクリートの破壊音と
幼子のピアノの練習音とが
同じリズムでもって垂れ流されている日常で
不定形な愛なるものの姿を
性格に捉えようとするその無様な行為は
おおよそ人とは似ても似つかぬ
男の皮をかぶった何者かの所業によるものに違いない
布のような雲から漏れ出るぼやけた陽光と
暗闇に現れる顔のない乳房と
パステルカラーのその部屋で
男はこの世が
すべてのものによって作られた世界であることを知る
生きていかねばならない
そうして死を書く男がいる