こんな風に静穏で空虚な時間

シェアする

詩・作曲/玄川静夢


息をしている
今息をしている
赤い川がとろとろと
脈を打ちながら流れている
街路樹の枝葉が肌をこすって
さわさわと乾いた音を立てている
腕時計の秒針がコチコチと鳴り
鳥のさえずりはビルの間で反響している

息をしている
今息をしている
コバルトブルーのみずみずしい空が
その表面に雲を泳がせて
いたずらなマーブル模様を作らせている
東の太陽はほど良いまぶしさで
小さな水辺にきらめきを与えている

女生徒が談笑しながら靴をすり減らし
ホームレスは駅前のベンチに寝転がっている
通り抜ける車のマフラーから
ぶおうぷおうというエンジン音が聞こえる
朝にこもった街の形相が
生暖かい毒気をはき出している

恥ずかしかった昔のこと
失敗ばかりした昨日のこと
怖くて逃げだした今日のこと
やがてやってくる明日のこと
霞のかかった未来のことを思いながら
ゆっくりと流れる時間の
輪郭線沿いを歩いている

息をしている
今息をしている
伝えるための言葉を慎重に選んで
浮き沈みする光の間を行ったり来たりしている
草むらに落ちたゴミを拾って帰るように
誰もいない赤信号をこっそりと渡るように
愛想笑いを浮かべながら
優しい嘘をつきながら
自分というものの存在を 確かめている