瞬間の詩 51~60

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何かの視線を感じる。常に何かが私を見ている。
私が呼吸をしている限り、空は太陽の光でまどろんでいる。
私が重力に逆らわない限り、土はいつも私を支えている。
私がここに生きている限り、海は私の内側でさざめいている。
沈黙を許せ、神よ。存在は財産だ。私は罪と怠惰を愛する者だ。


障子を開けると雀が飛び立つ。我先にとすぐ近くの木へととまる。しばしの沈黙。
柔らかい箒で縁側を掃いてやる。掃除をする気はないが自然とそうしている。木と枝のこすれ合って滑る音がする。
居間から拝借してきた金平糖をかじる。砂糖だ。トゲトゲだ。カラフルだ。そして甘い。
これが私の家だ。


音楽は、時に人を空しくさせる。林檎飴のしょっぱいところのように、重要な場面でふと現れては、まるで自分だけが不幸であるかのような気分にさせてくる。「ああ、悔しいな」と思って、そうして忘れていく。
そんな感情が水面下に溜まってくると、水に濡れた落ち葉みたいな心が生まれる。


傷の舐め方は覚えているのだけれど
怪我の数が多すぎて とても楽になれるものじゃない

ささやかな良心だけを残して
穏やかに死んで行くのだろう

優しさなんてどこを切り取っても同じようなものだ
切り口は鮮やかで軽い

この世で最も美しく
誰にも気付かれない嘘をついてやろうと思う


あいにくですが、当店に個性は持ちあわせておりません。友情、愛情、その他諸々の奥深い人間関係もございません。想像という名の羽を休められるほど大きな店でもありません。その代わりと言っては何ですが、自由がございます。


嘘をつくことに飽きてしまった
全てバラすつもりで消してみたら
そもそも誰も話を聞いてはいなかった
背負い込んだ荷物を捨てていく度に
新しい嘘が鼻の隙間からこぼれる
僕は真性でした そうして惰性でした


ソファーの上の白くて柔らかそうなクッションを触ってみたら、実は鉄球の沢山入ったダンベルだった――そんな出来事が、私の周りにはよくあります。
そして悲しいかな、一度触ってしまったダンベルは持ち上げなければいけないのです。持ち上げ続けるとどうなるか。身体が鍛えられて人間になります。


コンビニでいつもより多く買い物をしたら、店員のお姉さんがくじを引いてくださいと言う。引いてみるとアイスが当たる。
彼女は小走りでそれを取ってきたあと、既に会計を終え私の手にぶら下がっているレジ袋の中に音もなく入れ「ありがとうございました」と言う。
私は700円で幸せを買った。


頭の中で次々と生まれ、死んでいく言葉。それらを出来うる限り捉え、昆虫を剥製にするのと同じように、紙に書き留めていく。
いつかまた脱皮をする時に、手順を間違えないための説明書。それまでは誰にも見せない、僕だけのコレクション。
偶発的に生まれる瞬間の詩。人はそれを夢と呼ぶ。


夢を見ていた。手を伸ばせば届くかもしれない、目の前にある林檎の果実のような夢を。
いい気分だった。幾つもの映画の1シーン……切り取った断片を自分に貼り付け、さも自分が主人公であるような錯覚をしていた。それらを壁にぬすくっていく。
過去も、そして今も、鏡の精霊が微笑むことはない。