「暴力教師と洋食屋さん」2016/11/7

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Dream

 私は、私が通っていた高校の体育館にいた。よく覚えているし、知っている。私は制服を着ている。

 入り口から沢山の生徒が集まりつつあった。全校集会というやつだろうか。いつもなら身長順に三角座りで並んでいくはずだが、今日は調子が違った。来た人から順番に、正座で座っていくのである。教師は体育館全体を囲むように壁際にもたれかかっており、姿勢を崩すものがいないか、監視をしている。少しでも姿勢を崩している者がいれば声に出して注意する。足を怪我していようがお構いなしである。

 私もそれに習い正座を貫くことにする。正座自体は普段からなれっこで、苦になることはない。最前から2,3列後ろあたりにいたように思う。

 校長先生らしき人が出てくる。顔は思い出せない。手持ちのマイクから挨拶が垂れ流される。「皆様、おはようございます」

「おはようございます!」生徒全員が手を地につけ、頭を深く下げた。土下座というやつである。土下座をしながら挨拶をするとは知らなかったので、私も慌てて頭を下げる。

「そこ、頭が浅いぞ!もっと深く下げろ、もう一度!」

「おはようございます!」

「声が小さい!もう一度!」

「おはようございます!」

 ようやく挨拶が終わったところで、校長先生のお話である。今更だが私の覚えている高校はこんなに規則に厳しくないし、全校集会で土下座をさせながらの挨拶を強いる鬼畜学校ではない。ごく普通の高校だったように思う。ただその時の私は夢の中だから、土下座をすることが当たり前だと思っている。私はできるだけ目立ちたくないと考える方で、アタリマエのことをアタリマエとして、何の疑いもなく受け入れるタイプだった。高校時代当時はそうだったらしい。

「早速ですが諸君、私は生徒が大好きだが、嫌いな生徒というものもちゃんといる。身体の大きい生徒、頭を伏せない生徒、そして謝らない生徒の3種類だ。今日はまず『月光組』への制裁を行う」

 校長先生がそう言うと、壁際でダルそうな顔をしていた男性教師が数人、生徒の列の隙間へと割って入って来る。最初から決まっていたのか、男性教師は複数の男子生徒を手招きで呼び出し、校長先生の前へと一列で並べていく。最終的に20人ほどの男子生徒が前に並べられた。この高校は共学なのだが、並ばされているのは男子生徒だけである。心なしかガタイがよく、目つきがあまり良くない。その中には、私の友人であるIもいた。

「この者たちは身体が大きい、日頃よく鍛えているのだろう。それだけで私は虫酸が走るほどなのだが、更にたちの悪いことに、『おはようございます!』と挨拶をしなかった。私の嫌いな3種類の生徒のうち、2種類に当てはまっているわけだ。これがどういうことか、わかるだろう」

 見せしめのお説教か、なるほど、と思った。頭髪検査と似たようなものだ。髪の色が黒くないものだけをその場に立たせ、注意する。同じようなものだ。しかし挨拶はともかく、ガタイの良さで嫌われるとは、校長先生の考えていることはよくわからない。

 男子生徒が横一列に並ばされたところで、校長先生が一番近くの生徒に向かい、こんな質問をした。

「君、今日一日の目標は何かね?」

「え?」

 男子生徒は突然の質問にうろたえている。数秒沈黙が続いたその瞬間、校長先生が男子生徒に、本気で殴りかかった。男子生徒は軽く吹っ飛ぶようにして床に倒れる。

「いけないねえ。今日一日の行動指針も決められないようじゃ、君は人間失格だね。罰を与えなければなるまい。怪我をしなけりゃわかるまい」

 校長先生はそう言いながら、倒れている男子生徒の頭を蹴りつけた。執拗に頭だけを狙っている。2発、3発、と何度も蹴られている内に、男子生徒は鼻から血を出し、頭から出血し、床は赤黒いもので汚れていく。

 私も含め、生徒はその様子をただ見守っているのである。動揺することもなく、悲鳴を上げることもなく。

 校長先生の暴行は、並べられた男子生徒全員に対して行われた。

*     *     *     *     *

 時間が流れて昼休み、私は学校の外にあるらしい洋食屋で昼食を取ることにした。

 徒歩で向かう途中でIを見つける。Iもこちらに気付いたらしく駆け寄ってくる。

「おう、いたいた。いやー今日の校長は随分と怒ってたな。俺は数発殴られただけで済んでよかったぜ」

 そう言いながら笑うI。顔にはいくつかのアザと擦り傷ができ、ところどころ血が流れている。顔面全体が冷や汗をかくように汗ばんでおり、どう見ても涼しい顔をして歩いていられる怪我ではない。学校の近くに病院がないのか、あっても行くことができないのか、理由はよく知らない。

 学校の外は全く記憶のない場所で、通行人もおらず、道が入り組んでいるせいで非常に迷いやすい。

 道中、Iが道を間違えて違う方向へと行こうとする。そっちじゃないぞ、と私は声をかけて彼を止めるのだが、私自身も洋食屋への道のりを知らない。この場所そのものを知らない。しかし私が歩いて数分で、目の前に幾つかの木々に囲まれた小さな小屋のような建物を見つける。どうやらここが目指していた洋食屋らしい。

 なぜ知らない場所に洋食屋があることを知っているのか、なぜIが道を間違えたことがわかったのか、それは私にもわからない。

 洋食屋は扉が開いておらず、扉の前にはベンチが2台置かれ、扉には「座ってお待ち下さい」と書かれたビラが貼ってある。私達はそこに座って、扉の開くのを待つことにした。

Real

 洋食屋のベンチに座り、待っているところで目が覚めた。

 今日は随分と寝ていたらしい。布団に入ってから10時間ほど経過している。昼夜の温度差が激しいせいか風をひいてしまったようだ。鼻水が止まらない。

 ジグソーパズルは全く進まない。やろう、やろうと思い時々手を付けるのだが、パズル自体が難しいのか1時間で数ピース、といった具合である。まだ枠の部分と中央の3列程度しか完成していない。

 物事、人間に対する極度の無関心。激しい気持ちの上がり下がり。夜型生活のおかげで、買い物と仕事以外は外へ出ることがなくなった。時間の流れが以前よりも早く感じる。最近は友人からの連絡も少なくなった。

 働くことにこれっぽっちも魅力を感じない。ただ生きていくためだけの手段。月に10万円もあれば人はそこそこに生きていける。後は自室で、自分の好きなように過ごせばいい。

 不思議と、今の状況に苦を感じない。精神的な面で言えば、何かをするより何もしていないほうが気持ちが楽だ。やはり、一人で生きている方がいい。