近所の森の奥の奥の、
道の通りのはしっこに、その樹はある。
久方ぶりにやってきた。
陽の光が雲間から差すように葉を広げ、
己が己であることを思い出したかのように呼吸をし、
最初からそれが当たり前であるかのように根を伸ばす。
樹は実をつけることはないが、
いくらでも花を咲かせることができる。
その樹の前では、
私のことばは羽となる。
薄く、軽く、
ペラペラと音をたてながら、どこかに飛んでいってしまう。
重石を持ってくるべきだっただろうか。
いや、違う。
私はずれているのだ。
大きな枠からはみだして、その上で遊んでいるのだ。
重石とは虚構なのではないか。
樹に風がなるように、
海が空を見上げるように、
太陽が時間を運んでくるように。
ことばとは飛ぶものなのだ。
そうして遠くで浮かんでいるものなのだ。
次の風がやってきてしまう前に、
あたらしい詩を用意しておこう。