瞬間の詩 81~90

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ある朝 歯を磨くと
世界のどこかで誰かが死んだ

そんな痛々しいニュースを見て
君は僕に「死なないで」と言う

理由を尋ねると
なんだかそういう匂いがしたらしい

「そんなことあるわけないじゃないか」
とりあえず そう返して別れた

今日は一人の酒がうまい


今日はやさしいけがをしよう
ほんの少しだけ痛いけれど
あなたのために やさしいけがをしよう

笑顔のおすそわけをいただいたから
軽いトゲなら 刺さってもかまわない
半分くらいは身を乗り出してかばってあげる

血は流れても
涙の流れない
今日はやさしいけがをしよう


不注意なぼくは
自分でも気付かないうちに
何かを落っことしてしまう

落としたものが何であったか
一体いつ どこで落としたのか
気付いた時には大抵戻ってこないもので

ぼくの住む町に太陽が登る頃
ギラついたコンクリートの壁にそれを見つけるのだ

探しものはわりとすぐ近くにある


毎日の暮らしを言い訳にして、
向こう岸の自分が飢えていく。

豊かになることや寂しくなることは、
共に死を迎えることなのだから、
別にどちらになろうと構わない。

人を知るのは途中経過で、
結末は大体同じようなものだから。

怖いもの見たさで己を救う。
話を聴くのはそれからだ。


人。それは矛盾した存在だ。人を人という動物たらしめる「理性」が強くなればなるほど、生物としての生存が危ぶまれる。同族を育てることを嫌がり、自分だけの快楽を求め、常に裏で糸を引き、目的のない殺戮を行うようになる。
本能が消えていく。抑制の効かない理性が人間を滅ぼそうとしている。


誰かがボクをお呼びでない
そのたびに
ボクは木の棒で砂場をひっかくような
弱いけどしつこい傷跡を残すのだ

傷跡にはかさぶたができ
そこだけが少し盛り上がったふうになる
その小さな段差につまづきやすいように
ボクのつま先は作られている

視界には罠が目のように張り巡らされている


メガネにホコリが溜まります。かけたまま朝日を見上げると、虹色に輝くのです。
僕は昨日の終わりと、今日の始まりとを運ぶ運び屋さん。毎日生活、ご苦労さん。
あっちを見ても、こっちを見ても、今は虹色、夢の色。
この気持ちを誰かに届けましょう。そうしましょう、そうしましょう。


理由なんてないんです。あなたにも、わたしにも。
枠線をはみ出ないように色を付ける、塗り絵と同じ。大体の人は見ていないけど、なんだか塗らないと怒られるような気がするから、そこそこ、ほどほどでやり過ごそうとする。
別になんでもいいんです。なんでもいいから、たまには少しはみだしたい。


世界の
この多方面的な
開拓していく世界の
ありとあらゆる波の真ん中で
生きてゆかねばならないと

一体いつ
どこで
誰が
決めたのでしょう

現実でもなく
空想の名を借りた別世界の現実でもなく

と呼ばれる
孤独な
波立たぬ海を見ていたい


平和な国では毎日のように戦争が繰り返されている。顔のない他人がこの国の領主である。称賛の条件は貢献。それがなければ徹底して鎮圧、叩きのめされる。
誰もが誰かを変えてしまいたいと考えている。ものさしは常に人が握っている。世界には憎悪が満ち、知らない誰かと誰かが戦争をしている。