瞬間の詩 111~120

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猫ばかりが人前に出て話すものだから
カラスは言葉を忘れてしまった

整地されたサッカーコートのように
雑草一本生えてこなくなった

それを不憫に思った猫は
ある日カラスに「音楽」をプレゼントした

カラスは自分の声を
少しだけ好きになれたので
試しにカアカア鳴いてみることにした


清浄で、とても正常で、狂っている。
世の中そんな人ばかりです。


太陽が東から西へと空を掻き
時計の長い針が1から12までの数字をを2周し
地球が時速1700キロで街を振り回し
サラリーマンが自宅と会社とを行ったり来たりする
そんな中で
僕だけが身じろぎせず
鉄筋コンクリート製の建物の中を空中で静止している
なんとなく そんな気がした


湖にナイフを投げる
夜長にきらりと閃光が走り
音もなくゆっくり沈む

湖にナイフを投げる
刹那が人の芸術性であるからして
湖底では無数の錆びが色を濃くしている

湖にナイフを投げる
世のため自分のためにと
子供は家で刃を研いでいる

湖にナイフを投げる
それから先はよく知らない


愛が言い訳をしてる
愛が言い訳をしてる
伝えるものはどんどん若返るのに
背負うものはどんどん重くなる

生を後ろ盾にして
街は弁明をしてる
性懲りもなく種を撒いて
もくもくとガスを吐き出している

波のない海を探しながら
慎重なのは嘘だ と
当たり前の顔をして
愛が言い訳をしてる


一番大切なものを伝えるために
必要な道具はどうにも重くて
届けたいものも 届けられない

声をかけるのが怖いから
強迫観念と焦燥が行き来して
横断歩道の真ん中で立ち往生してる

渡れる道路を渡ろうか
道は他にもあるんだし

背負うは心
歩くは一人
引きずりながら旅をして


本当の隣に「ついで」を置くから
目的が他人とすりかわる
見当違いの意見にやられて
なかなかエンジンがかからない

通りすがりの旅人に
誕生日プレゼントを送るような
救えないセリフを丸めて
しゃがんだ心をいじめるような
そんな風邪が流行りそうで
顔を歪めてくしゃみをしてる


足りないところを埋めようとして
他のところが足りなくなる
そしてどちらにしろ 絵柄は揃わない
スライドパズルさ
いびつな柄を無理やり当てはめて
固定された枠の中でこねくり回してる

簡単なことさ
ただ金槌を手にして
枠ごと粉々に破壊してしまえばいい
それを作品だと呼べばいいのさ


たまには言葉を探さないと
煮えすぎた白菜みたいにとろけちゃう
つまもうとしてもボロボロくずれて
湯の底の食べかすさ

それはそれで美味いんだけど
柔らかすぎるのも問題なわけで

たまには隣の畑から
シャキシャキのやつをさらってきて
ゴメンと言いながらかじりつきたいもんだ


例えば今朝食べたパンの賞味期限が切れていたとか、そんなことがきっかけで意味の奴隷になるのである。
物事に対する体温が下がり、エログロナンセンスを追い求め、生と死にかかりきりになるが、今度は夕飯のカレーの匂いとか、ちょっとした優しさとか、そんなことがきっかけで元に戻るのである。